彼「最近は調子どう?そろそろウチの会社に来る気になった?」
私「ありがたい話だけど、今の生活が気に入っているんだ。それに、オレなんかには務まらないよ」
彼は半年に一度くらいのペースで同じような話をしては無職の私を労働市場に引き戻そうとしてきます。その度にありがたいと思うのも、自分には務まらないと思うのも、本心です。
最初の出会いは学生時代、社員が数人しかいない小さなベンチャー企業でのインターン中でした。彼は日本で最も頭の良い大学を卒業した後、当時はまだ無名だったベンチャー企業に就職した骨太(変わり者?)な男です。
頭の良い彼は大企業に就職することが豊かさを約束してくれるような時代ではないことを周囲の誰よりも理解していたのでしょう。そんな気概のなかった私はその気になれば定年まで勤め上げられそうな大企業に就職しました。
当時は地方から出てきた田舎者の青年に過ぎませんでしたが、数年ぶりに再会した彼はハイブランドのスーツを華麗に着こなし、今では数百人規模になったベンチャー企業の役員に相応しい出で立ちです。
予約してくれたお店も男2人で入るにはお洒落過ぎたくらいで、よれたTシャツにサンダル姿の私には不釣り合いだったかもしれません。
彼の提案は常に魅力的です。日本だけではなく世界でも通用するようなサービスを展開しており、如何にやりがいのある事業なのか、私でも理解できました。最先端の企業らしく、働き方も融通を利かせると言います。
あまりにも洗練されたプレゼンテーションを聞いていると、自分が煌びやかなオフィスで優秀な仲間達に囲まれて働いている姿を想像してしまうほどです。しかし、同時にその裏側についても想像する必要があります。
毎月のように行っている海外旅行はたまにしか行けなくなり、今の自由な生活を手放すこと。それなりの待遇を受けておきながら期待に応えられなかった時、他人を失望させてしまうこと。
そこでいつも夢から覚めて我に戻り、自分という人間の本性を思い出します。私には彼のような大志もなければ、それを実現させるための能力もガッツもありません。
世界で通用するサービスよりも、これから出てくるヒレステーキの焼き加減や明日の天気の方がよっぽど大切、そういう人間なのです。
学生時代はみんな根拠のない自信を持っているもので、私達もお互いに大きな夢を語り合うようなことがあったかもしれません。彼は今もその大きな夢を追い続けており、それだけの能力とガッツがあることを誇りに思います。
一方の私は夢というか自分の手に届く小さな幸せを見つけて、どちらかと言えば夢の中にいるようなフワフワした日々を送っています。他人に誇れるような暮らしぶりではありませんが、心の声に従い、自分で選択しました。
彼のような刺激に満ち溢れた人生には憧れもありますが、劣等感(もしくは優越感)のようなものは1ミリもありません。
よそはよそ、うちはうち。自分のことは自分が一番よくわかっていないといけないのです。
・・・
翌朝、頭と身体に猛烈なだるさを覚えました。どうも30歳を過ぎてから二日酔いになりやすくなったような気がします。
私よりも飲んでいた彼のことが少し心配になりました。きっと今日も朝早く出社して、部下を叱咤激励したりとか、バリバリと仕事をこなしているのでしょう。
朦朧とする意識の中でそんなことを考えながら、いつも通り二度寝をすることにしました。こういう時、やっぱりセミリタイア生活も悪くないと実感します。
子供の頃に憧れていたような格好良い大人にはなれませんでした。大志なきセミリタイアです。
でも、こっちの方がしっくりきます。
今日は以上です。
コメント
こういうお誘いを受けたら、自分の人生について考えますね。
どんな環境で仕事をして、どんな生活をするのかは考えないといけない時代だと思いますが、なかなか真剣に考えることってないですよね。
私も、これからのことを考えるいいきっかけになりました。
ありがとうございます。
yuko さん
コメントありがとうございます!
考えても答えが出ない問題は心の声に従っています。