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マニラのブラックジャック




 

ソレアリゾートアンドカジノは首都マニラにあるフィリピン有数のリゾート施設です。ホテルの部屋から一望できるマニラ湾は南シナ海と結ばれていて、空を真っ赤に染めるような夕陽の美しさは世界的に知られています。

 

そこにいる誰もが幸せな顔をしているはずのリゾート施設で、私は目の下に大きなクマをつくりながらトランプの数字を数えていました。南国で気が済むまでゆっくりしようと思い立ち、外貨規制ギリギリまで持ち込んだ現金は既に半分以下になっています。

 

ふと冷静になると、この時点で負けを確定させて席を立ったとしても、フィリピンの物価であればしばらくは遊んで暮らせる金額です。頭の中ではそんなことを考えながら、無表情で目の前のベットボックスにチップを置きました。ゲーム続行です。

 

配られたカードは2のペア。ディーラーのアップカードは5。迷うことなくスプリット。1ハンド目は7が来てハード9、ダブル、ピクチャーが来てハード19。2ハンド目はAが来てソフト13、ダブル、8が来てソフト21。ディーラーのバーストでどちらも勝利。

 

チップは最初に賭けた金額の4倍になって戻ってきました。私はそれを山のように積み上げてベットボックスに置き直します。勝負どころです。

 

次のゲームではあっさりとブラックジャックが完成しました。ディーラーのアップカードはAですが、イーブンマネーは受け取りません。ディーラー18でまたもや勝利。

 

チップは更に1.5倍になりました。ここでわざとらしく手持ちのチップを確認します。2連勝して6倍になったチップを全て賭けて、再び勝つことができればフィリピンに持ち込んだ資金をプラマイゼロまで戻すことができます。

 

もし負けてしまえば、また半分からやり直しです。特に意味もなく腕時計をチラッと見た後、私は今日一番の大勝負に出ることにしました。

 

一般的に、カジノで人気があるのはルーレットやバカラのようなわかりやすいゲームです。ギャンブラーは「赤か黒か」「プライヤーかバンカーか」という1/2に近い(もちろん常に1/2未満の)確率に賭けていきます。

 

しかし、私がカジノでプレイするのはそれらよりもペイアウト率が高いブラックジャックだけです。胴元との直接的な勝負ではないポーカーを除けば、世界で最も“負けにくい”ギャンブルだと言えるでしょう。

 

配られたカードは4のペア。ディーラーのアップカードは6。スプリットをするべきハンドです。しかし、このゲームでは手持ち資金の1/3を賭けています。もしスプリットをして負けてしまうと、そこから取り返すのは容易ではありません。

 

少しだけ考える素振りをしてみますが、最初から答えは決まっています。賭けている金額に関係なく、このハンドならスプリットをするのが最も期待値の高い選択なのです。

 

1ハンド目は絵札を引いてハード14、ステイ。2ハンド目は6を引いてハード10。今度はダブルをするべきハンド。こちらに有利な状況とはいえ、ここでダブルをすると、手持ち資金の全てをこのゲームに賭けることになります。

 

同席していた如何にも富裕層らしい風貌のフィリピン人はタガログ語で何やら文句を言っています。私はテーブルの左端に座っていたので、もしスプリットをしていなければディーラーがバーストしていたからでしょう。

 

私は構うことなく残りのチップを全て差し出してダブルをしました。1回のゲームでこれほどの大金を賭けるのは過去を振り返ってもありません。結果は9を引いてハード19。

 

いよいよ次はディーラーのターンです。アップカードは最弱の6。ゆっくりと丁寧な動作で2枚目が引かれると、めくられたのはA、ソフト17。

 

私「1ハンド目は負け、2ハンド目のダブルは勝ち、これでプラマイゼロか・・・」

 

ディーラーのバーストを期待してスプリット・ダブルと賭け金を膨らませていましたが、金額が金額なだけに、今回は勝ち越せただけでも十分です。ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、ディーラーは手を伸ばして3枚目のカードを引きました。

 

私「は?」

 

めくられたのは3、ソフト20。高く積み上げられたチップの山が回収されていきます。富裕層らしきフィリピン人は口角泡を飛ばして今度はディーラーに大きな声で文句を言っています。

 

私「ディーラー17はステイじゃないの?!」

 

事態を飲み込むことができないまま狼狽えていると、ディーラーはバツの悪そうな顔をしてテーブルの隅に置かれたルール表を指差しています。どうやら今年からブラックジャックのルールが変更されてディーラーのソフト17はヒットになったそうです。

 

そこにある小さな文字を読んでみると、たしかに書いてあるのです。カジノでゲームのルールが変わることはそうそうありません。私はこの時まで気付きませんでした。

 

呆然とする私をよそ目に、ディーラーは次ゲームのベットを促しています。軍資金は全てなくなりました。手元には最低ベット金額すらありません。もう、席を立つしかないのです。

 

カジノで負けるのは4年半ぶりでした。重い腰を上げて部屋に戻る途中、その日のゲームが走馬灯のように頭を駆け巡ります。いくら考えたところで、軍資金がない以上、また出直すしかありません。

 

ギャンブルの世界を支配しているのは数学です。「今日はツイている」「今日はツイていない」という錯覚はギャンブラーの誤謬であり、試行回数が増えれば増えるほど大数の法則という数学的な現象によって確率は収束します。

 

つまり、胴元が存在するギャンブルでは全てのギャンブラーがいずれ破産するということです。こんなことは小学生でもわかりそうなものですが、残念ながら私達が賭けることをやめる理由にはなりません。

 

ギャンブラーの心と体を支配しているのは数学ではなく動物としての本能だからです。乾いた言い方をすれば脳内報酬系ということになります。中には、自分には未来を予測できる神秘的な力があるはずだと信じているギャンブラーもいるかもしれませんが。

 

部屋に戻ると尋常ではない倦怠感に襲われます。これ以上、ここに滞在する理由もお金もありません。使い慣れないアラームをチェックアウト時間の30分前にかけて、明日以降の予定も立たぬまま泥のように眠りました。

 

今日は以上です。

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